そろそろ恋する準備を(短編集)


(朝比奈先輩からのセクハラ生活 その8「最初の秘密」)


 息苦しさで目が覚めた。
 目の前が白い。それはなぜか。
 身体が動かない。それはなぜか。

 答え。わたしはなぜか朝比奈先輩に抱き締められていて、先輩のTシャツに顔を埋めていて、背中が腕に回り足が絡まっているから。

 そもそもなぜこんな目覚めになってしまったのかと思い出してみる。

 昨日は先輩の家でDVDを観て、ごはんを食べて、またDVDを観て、おしゃべりをしたところまでは覚えている。その後はきっと、疲れて眠ってしまったのだろう。

 と同時に、わたしはなんて危険なことをしたんだと驚愕する。
 変態の朝比奈先輩の前で眠ったりしたら、良からぬことが起きるに決まっているじゃないか!
 現にこうやって抱き締められている!

 少しだけ身体を捩って確認してみる。リボンは外されているし、靴下も脱がされているけれど、ちゃんとブラウスは着ている。
 いやしかしこの変態……わたしが寝ている間に何かやらかしてはいないだろうか……。それは寝ていたせいで全く思い出せない。

 変態のことだから、下着の確認くらいはしただろうし、わたしを抱き枕化する前に身体も触っているはず。
 まあそれだけで済んだのなら、不幸中の幸いというところか……。


「朝から怪人百面相?」

「うっ、あ」

 突然頭の上から声がして、驚いて飛び起きようとしたけれど、しっかりホールドされていて動けない。

「おはよ」

「お、はようございます……」

「よく寝てたね」

「はあ、まあ、そのようで……」

 言うと朝比奈先輩は、くつくつ笑いながら起き上がる。ホールドはまだ解けていないから、わたしも一緒に起き上がった。

 ここでようやく解放してもらえたから、急いでちゃんと衣服の確認をする。
 よし、特に変わった形跡はなし。ブラウスの第二ボタンまで外されているのは、苦しくないように開けてくれたということにしておこう。




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