そろそろ恋する準備を(短編集)
「はるちゃん寝言言ってたよ」
「え……」
「先輩だいすきーって」
「……いや、嘘ですよね」
「あはー」
朝比奈先輩は寝起きだろうが朝比奈先輩だ。もしいつか地球最期の日が来たとしても、こんな風にへらへらにこにことしているのだろう。
「おはようのキスでもする?」
「しません」
「どうして?」
「寝起きのキスって、ばい菌とかあって綺麗じゃないらしいですよ」
「そうなの?」
へええ、と感心したような声を出した朝比奈先輩は、天井を仰いで少し考えたあと。突然わたしの腕を引いて、部屋を飛び出した。
そしてお風呂場に押し込み、壁に追い詰めて、シャワーコックを捻る。
当然頭からお湯をかぶり、髪から顔、顔から胸、胸からお腹、お腹から太ももへと、順番に濡れていく。
「ちょっ、先輩、服……!」
お互い服を着ていたままだったから、服もろともびしょ濡れになった。
先輩は部屋着だったから良い。でもわたしは制服――ブラウスとスカートを着ている。
濡れたブラウスが身体に張り付いて気持ち悪い。早く脱ぎたいのに、壁際に追い詰められたこの状態で逃げ出すのは無理だ。
「はるちゃんの下着、透け透けだねえ」
そして相変わらずの変態発言。
呆れながら濡れた髪をかき上げ顔の水滴を払うと、目の前にあった先輩の胸がよく見えた。白いTシャツが張り付いて、身体のラインがくっきりと見える。この間抱き締められたときに感じた、あの筋肉質な身体だ。
思わずどきっとして、数秒の間見入っていたら、それを目ざとく見つけられ「はるちゃんえっちー」とからかわれてしまった。変態の先輩に言われるなんて、なんたる屈辱……。