そろそろ恋する準備を(短編集)


(朝比奈先輩からのセクハラ生活 その3「わたしは人間です」)



「先輩のいちごおいしそう」

「はるちゃんはチョコミント好きだよねえ」

「アイス屋来たら食べたくなりません?」

「おれはいちご専門だからねー」


 公園で自転車二人乗りの疑似体験をしたあと、無事に本日の目的地、古びた商店街のアイス屋に来た。
 店長のおじちゃんに「いつも仲良いねえ」と満面の笑みで言われながらいつものアイスを買って、店外にある年季の入ったベンチに座って食べる。

 朝比奈先輩はこの古びた商店街でも人気者で、前を通るおじいちゃんやおばあちゃん、おじちゃんやおばちゃんたち皆に声をかけられ、手を振って答えた。
 最近ではわたしもすっかり覚えられ「はるちゃん」と、声をかけられるようになった。百パーセント朝比奈先輩の影響だ。

 手を振りながら、先輩が持っているストロベリーアイスをちらりと見たら、なんだか凄く美味しそうに感じた。
 人が食べているものは無条件で美味しく見えるというアレだ。

 チョコミントアイスの爽やかな色と風味が大好きで、アイスを食べるときはチョコミント一択なんだけれど。ふと見ると可愛らしいピンク色のストロベリーアイスが、きらきらと輝き、まるでわたしを誘っているように思えた。そんなわけないのに。


「次は絶対いちごにしよ」

「はるちゃんそれ前も言ってたよ」

「次こそは」

「一口食べる?」

 にこにこしながら朝比奈先輩は、ピンク色のアイスが乗ったコーンを差し出してくる。これは非常にそそられる提案だけれど……。

「……結構です」

「えー、一口くらい良いのにー」

「一口でももらったら、後で何を要求されるか……」

「心配しなくても、何も要求しないのに」

「いいです、次に来たときはいちごにしますから、ちょ、あーっ! 勝手に食べないでくださいよ!」

 丁重にお断りして、今回はこの大好きなチョコミントをたっぷり味わおうと思ったのに、先輩はそんなわたしの手を引き寄せ、悪びれる様子もなくアイスを舐める。断ったのに! ずるい!




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