そろそろ恋する準備を(短編集)

(朝比奈先輩からのセクハラ生活 その4「もっと意志の尊重を」)



『お腹空かない? 昼休み屋上で待ってる』

 四時限目が終わって携帯を確認すると、朝比奈先輩からそんなメールが届いていた。
 届いたのは十五分程前、まだ四時限目の最中だ。授業中に携帯をいじるなんて、朝比奈先輩こそ不良だと思う。いや、この感じだと四限はサボったのかもしれない。

 兎にも角にも昼休み。お弁当を持って屋上へと向かう。
 ただし足取りは重い。今日はどんなセクハラを受けるやら……。



 屋上の鍵はすでに開いていて、重いその扉を開けると、生ぬるい風がびゅうと吹いた。
 初夏の日差しがまぶたを突いて、ずきずき痛む。

「遅いよー」

 屋上の真ん中に、朝比奈先輩はいた。いつも通りにこにこと、平和な笑みを浮かべている。

「さっきの風で、はるちゃんのパンツ、丸見えだったよ」

 セクハラもいつも通りだ。

「今日は黒か。セクシーだね」

「変態。通報しますよ?」

「あはは、まあまあ、座って座って」

 促されるまま朝比奈先輩の元に歩み寄ると、彼が屋上で何をしているのか分かった。そして、四時限目をサボったであろうことも分かった。

 先輩の前にあるのは、理科の実験で使うアルコールランプと三脚。それに網を乗せて、焼いているのは……。

「焼き肉……?」

「化学室から借りてきたんだー」

 それは本当だろうか。化学の山本先生は厳しいことで有名だ。その山本先生が、実験道具をそんなに簡単に貸すのだろうか。しかも使用目的は実験ではない。焼き肉だ。よりによって焼き肉だ。
 もう本当に通報した方がいいかもしれない。



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