偽りの先生、幾千の涙
「はい…」
「俺も!
じゃあやっぱり普通でいいって!
ね?」
そんな感じで花音ちゃんをこちらのペースに巻き込んでいく。
そうやって予備校からファミレスに移動して、俺の目の前に座らせる。
花音ちゃんはファミレスとか来た事がないらしく、メニューを見た途端に値段の安さに驚いていた。
お互いに料理を注文してから、話を始める。
「そういえば、貴方のお名前を聞いていなかったような…」
「ああ、俺?
…貴久。」
「貴久君!?」
本名はこの前バレているから、偽名を考えようとしたところ、パッと出たのがこの名前だった。
ちょっと不味かったかもしれないと思ったが、兄さんと同じ名前だからか花音ちゃんの反応が良い。
伊藤君のお友達の貴久君になった俺を、花音ちゃんはどう思っているのだろうか。
「そんなにビックリする?
あ、もしかして彼氏と同じ名前とか?」
「そんなんじゃないよ!
えっと…担任の先生と同じ名前で…伊藤貴久さんって言うんだけど…」
「マジ?
それで友達が伊藤だから…そりゃ驚くな。
その先生、どんな人?」
「伊藤先生のこと?」
花音ちゃんは水を飲みながら考える。
答えが出る前に、頼んだ料理がやってきた。