強引年下ピアニストと恋するカクテル。


飲み過ぎて遅くなるとお姉ちゃんが颯太くんに送ってもらうから、スタッフルームは婚約者の姉ならば出入り自由だと聞いていた。だけど私まで好きに出入りして良いとは颯太くんは優しすぎる。

「し、失礼します!」
コンコンとノックして大声を出すと、私の鼻にぶつかるスレスレまで勢いよく扉が開いた。

「何?」
一瞬驚いたように見開いた目が、キッと細く私を睨みつける。
私の憧れであった蒼村怜也の面影が全く感じられない。
それどころか。

「きゃああ!」
そこには上半身裸の傲慢ピアニストの姿があった。
「な、なんで服を着てないんですか!」
慌てて背を向けると、また大袈裟に舌打ちしてきた。
信じられない。あの天使みたいな顔で舌うちなんてするの?

「なんで着替え中にノックされて服をまた着なくちゃいけないわけ? ってか何かよう?」
冷たく言われて気持ちが負けそうになるが、私もキッと睨みつける。
「こ、これ渡したかっただけですから!?」
「は?」
目をつぶって、上半身を見ないよう、見ないよう、気を付けながら花束を差し出した。
「……何、これ」
ちょっと間があったけれど、言葉の棘が無くなったように感じた。
覚悟を決めて目をあけると、花束に手を伸ばそうとしてくれていた。
「颯太くんに渡せって言われたの」
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