強引年下ピアニストと恋するカクテル。
が、手はピタリと止まったあと、下へおろされた。
「じゃあいらねえよ」
「はあ!? なんでですか!」
「……アンタが俺の為に持って来たんじゃないならいるわけないだろ」
あ……。
もしかして、私をスタッフルームにまで侵入してきたファンだと勘違いしたのかな。
ファンなら仕方なく受け取ってやろう、みたいな?
でも違うと分かって、態度を変えたってことか。
つまり、この人はファンの前だと天使のふりをするのかな。
「あの、わ、私、今日は貴方のピアノを聴きにきたんです」
「あんたが俺の?」
「だって、小さな頃から天才って言われてて本当に憧れてたし、それに私達同じピアノ教室で――」
どきどきしながら素直な言葉を伝えると、フンっと鼻で笑い飛ばされてしまった。
「そうだっけ? 俺、日本にいた時間短かったから覚えてねえよ」
――覚えてない。
その言葉にズキンと胸が苦しくなった。
けれど世界が違う人だ。
たった一言、しかも子どもの頃に話しただけの平凡なOLになった私と違い、覚えているはずなんてない。
「覚えて居なくても良いので、せめてこれ、受け取ってください」
「……だから、いらねえって」
「なんで?」