強引年下ピアニストと恋するカクテル。


そんなの無理。
だって蒼村怜也の憧れの存在が姉であるように、私には貴方は一応まだ憧れの存在であって、ファンのくせにキスなんてできるはずない。

「一度だけだって。それで忘れてやるよ。案外優しいんだよ、俺」

じりじりと彼との距離が縮まっている。
私が一歩下がれば彼が二歩追いついてくるみたいに。

「キスすれば、結婚は認めてくれるの?」
「ああ。だけど今してくれねぇなら絶対に認めねえ」

……。

今私が犠牲になれば、お姉ちゃんと颯太くんの結婚は幸せなまま迎えられる。
私が拒否したら、彼は颯太くんに会うたびにこの理不尽なまでの不機嫌オーラで周囲を怯えさせる。

それならば、私だって憧れの怜也にキスできるわけだから、別に悪い話ではないのかな?

「わ、わか――」
「みいちゃん、怜也の機嫌は直ったかな――?」

私の覚悟を無に帰すかの如く、呑気に颯太くんがドアを開けた。

が、壁に追い詰められている私と上半身裸の怜也を見て目を豆粒のように丸くした。

「あ、あーっと、ノックしてなかったね」
コンコンと、開け放たれたドアにノックする。
が、この状況を見た後で遅すぎるのではないでしょうか。

「機嫌が直ったんなら、四人で飲もうよって言おうと思ったんだけど」

私と怜也を交互に見て首を傾げると、不思議そうに呟いた。

「ねえ、止めたほうがいい? それとも出て行った方が良い?」
ひい。
「わ、私はそんなに軽い女じゃありません!」
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