強引同期に愛されまして。
彼は私の手に携帯を押し付けると、絞り出すような声を出した。
「畜生っ、なんで」
欄干を掴んだほうの手には、力が籠って青筋が立っている。息を飲んだままの私の耳に聞こえたのは、聞かせるつもりがないのかと思うほど小さな、かすかな声だった。
「……なんで俺ばっかり、こんなに好きなんだ」
私が驚いて瞬きをしているうちに、彼は欄干から手を放すと、背中を向けて階段を駆け降りた。
「待ってっ」
彼を追いかけようと一歩踏み出したら、壊れたパンプスでバランスを崩して、私は座り込んでしまった。
「いたた……」
次に顔を上げた時、田中くんの背中はもう小さくなっていた。
「待って。待ってよっ」
結構大きな声で叫んだつもりだったけど、聞こえないのか、彼は振り返りもしない。
「待ってよ。……もう一回言って」
言ったよね? 好きって。
それって私のことだよね?
体を重ねた時よりも、ずっとドキドキしていた。
答えが分からないまま悩んでいたあの嫌な気持ちが、安堵感で溶けていく。
彼の気持ちがこっちを向いてるって分かっただけで?
ああ私、こんなに田中くんのこと好きだったんだ。
最初っからちゃんと言ってくれてたら、もっときっぱりと梶くんと別れてこれたし、悩んだりしなかったのに。
座り込んだまま田中くんに電話をかける。
だけど、何コール待ってもとる気配はなく、やがて、留守番電話サービスへと切り替わってしまう。
「……言い逃げなんてずるいわよ」
憎まれ口を留守録に残し、心臓の高鳴りを押さえるために深呼吸をする。
そのまま私は、しばらくその場から動けなかった。