強引同期に愛されまして。
＊

　部屋に戻ってからもう一度電話を掛けたけれど、田中くんは出なかった。
おのれ、今日は無視を決め込むつもりか。根性なしめ。私は八つ当たりするように枕を壁に投げつけた。
パンプスのかかとが折れたせいで、足には普段の倍以上の負担がかかった気がする。
体全体が重たくて、動く気になれない。

そういえば、梶くんのメールも見ていない。

気が重たいけれど、無視されるのは傷つく。
今、田中くんが電話に出てくれないことが、こんなに苦しいんだもん。同じことを梶くんにするのは気が引けた。

だけど、見てしまえばやはり、ため息がこぼれ出る。

そこにつづられていたのは、切々と書かれた愛の告白だ。

別れてからもずっと忘れられなかったこと。
日本にやっと戻れてから、私に会いに来るまでにすごく悩んだこと。
好きな男がいると聞いた時に、初めて物分かりのいい男をやめようと思ったこと。

想いのこもった、しっかりしたもの文章に心が動かされないわけではない。
読書家の彼が選ぶ言葉はどこか文学的で、歯が浮くようなものが多い。読む本は雑誌と新聞という私にはちょっと思いつかないような表現で気持ちを伝えてくる。
付き合っているときはそれがとても嬉しかったものだけど。

……今はちょっと重いかな。
応えられないのに誠実に思われるのは辛い。これ以上、田中くんを惑わすようなこともしたくないし、梶くんには悪いけど、冷たいくらいの対応がいいんだろう。


【ごめん、これ以上の誘いは迷惑だからやめてください】


きつめの言葉を選んで、メールを送る。
けど、罪悪感は常にまとわりつく。
断るのも結構辛いものなんだわ、なんて贅沢なことを考えながら、眠れぬ夜を悶々と過ごした。


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