強引同期に愛されまして。


電車は思いのほか空いていた。空いていた席に並んで腰かけると、彼は私の耳もとに囁くように顔を寄せてきた。


「お前みたいに、ずけずけ人の欠点指摘して、それでも馬鹿にするだけじゃなく、最後まで面倒見てくれる奴は、初めてだったんだよ」


小さな揺れを伴いながら走る電車の車輪の音は、時折彼の声を聞こえにくくさせるから、聞きこぼさないようにと彼へと意識を集中させた。


「俺んち、結構デカい不動産会社なんだよ。主にマンション販売とかしてて、それなりに儲かってるわけ」

「ああやっぱり」

「知ってたのか?」

「ううん。ただ、マンションが親の持ちものって言ってたから」


やっぱり金持ちのぼんぼんなのね。いまいち常識のないところとか、人間的にどうなのとか、疑問に思っていたところもとりあえず納得。


「大学まではさ。俺、そこそこ勉強はできたし、すげーモテてたし、調子に乗ってたんだよな。親の跡なんて継がなくても自分でひとり立ちできるっていきがってた。……でもさ、こうやって親の仕事の系列から外れた会社に入ってみて正直ビビった。周りは俺をけちょんけちょんに扱うし、自分の持っていた知識は社会では思うようには役立たないしさ。思えば、俺が今までちやほやされてたってやっぱり“金持ちの息子”っていう肩書のせいだったのかな、とかちょっとへこんだ」


それが恥だとでもいうように、どこか不貞腐れながら彼は話した。
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