強引同期に愛されまして。
彼との未来はこの延長上にあるんだろうと思ったら、安心して結婚も考えられるかもしれないなぁなんて思う。
そろそろ、本気で自分のアパートの解約を考えようかな、なんて考え始めた時、私はその人に出会った。
マンションの自動ドアをくぐると、人の気配がする。エントランスの花を上品そうなご婦人が活けなおしていた。
「こ、こんにちは」
「はい。こんにちは」
挨拶をすればにっこり笑ってくれる。年齢にして六十歳前後。落ちついた茶系のスーツが似合っていて、綺麗に染めた髪はマロンブラウン。以前の花を新聞紙に包み、見ているうちに手際よく花を直している。
……もしかして、この人田中くんのお母さんだったりするのかしら。
気になってじっと見てしまったら、不審そうに彼女が私を見る。
「……なにか?」
「あ、いえ。し、失礼します」
私は思わず目をそらしてしまった。
まあ、紹介されたわけでもないし、今はしらばっくれればいいかとエレベータに乗り五階へ上がる。
田中くんはまだ帰ってきていないので、私は鍵を開け中に入り、彼が帰って来る前にと夕食を作ることにした。
鼻歌を口ずさみながら炊飯器をセットし、買ってきた野菜を刻んでいると、トントンという音にガチャガチャという金属音が混ざる。
これって、鍵穴を回す音……だよね。彼が帰ってきたのかな。
なんだ、十分と変わらないなら一緒に帰ればよかった、と思いながら「おかえりー」と声をかけると、予想した声とは違う、しかし聞き覚えはある女性の声で「どなた?」と問い返された。