世子様に見初められて~十年越しの恋慕


「申してみよ、世子」
「無理なお願い事だと重々承知しておりますが、………此度の初揀択、私も同席したく存じます」
「何、世子直々とな?」
「はい、大妃様」
「世子、それはなりませぬっ!揀択は内命婦(ネミョンブ:王妃を始め、宮女も含めた宮廷内の女性の総称)の事ゆえ、例え王様でも口出しは出来ぬもの。世子であるそなたが、口を挿むなど言語道断です」
「母上、お言葉ですが……。私は口出しするつもりはございません。ただ、どのようにして私の妃が選ばれるのか、それが知りたいだけです」

内命婦を取り仕切る長として威厳を保たねばならぬ王妃だが、世子がいう言葉にも一理ある。
今まで黙認されて来た事柄ゆえ、王妃はどうしてよいものか、断る理由を考えていた。
すると、

「王妃」
「はい、大妃様」
「良いではないか」
「ですが……」
「この場で見学するだけだというのだから、断る理由がなかろう。嬪宮(ピングン:世子嬪の別の呼称)を選ぶのは、あくまでも私達なのだから、問題ないではないか」
「…………はい、大妃様」
「有難うございます、大妃様」

大妃の鶴の一声により、ヘスの思惑通り、初揀択を見学出来る事となった。
王妃は溜息まじりに世子に鋭い視線を向けたが、当の本人は既に良家の娘達に夢中のようだ。

「ユン尚宮」
「はい、大妃様」

大妃付きの尚宮が目配せすると、初揀択に選ばれた娘達の前に茶菓子が置かれた。

「今お配りした紙にお父上様のお名前をご記入下さい。書き終えましたら、宮廷菓子をご用意致しましたので、どうぞお召し上がり下さい」

名家の娘達は父親の役職と名前を明記し、それをお膳の左上に置く。
大妃、王妃を始め、王族の女性が数名いる中、お茶菓子を食す際の作法を見るというもの。

どの娘も緊張の色を隠せずにいた。


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