世子様に見初められて~十年越しの恋慕


「ッ?!………何か、分かったことでも?」

ソウォンの部屋の床を水拭きしていたチョンア。
ソウォンが急に大声を出したものだから、一瞬驚いてしまった。

「謎が解けたというほどではないんだけど、一定の法則みたいなものが分かったわ」
「凄いじゃないですかっ」

ソウォンは、― と ‐‐ が書かれているそれぞれの紙を床に置いた。

「この“―”が陽だとすると、こっちの“‐‐”が陰を示すの」
「はぁ……」
「“=”が陽の陽、“⁼⁼”が陰の陰だとすると、“≡”は陽の陽の陽、“≡≡”は陰の陰の陰という事を表すわ。これらは、それぞれ意味があるの」
「はぁ……」

真剣な表情で説明するソウォンに対し、チョンアは全く理解出来ないといった表情で、相槌を打つのがやっとである。

「口で説明するのは少し難しいから、今から書くからよく見てて」
「あ、はいっ!」

ソウォンは次々と文字のような記号のようなものを書きながら、一つ一つ丁寧に説明してゆく。

「なるほど~。では、この八つが基本という訳ですね」
「ん、恐らく。これは、太極を表した図。すなわち、易の構成図になる八卦太極図よ」
「はっ……か、太極図……ですか?」

説明されても尚、理解に苦しむチョンア。
奴婢にしては珍しく、読み書きは出来るものの、さすがに学に優れているというほどではない。
その点、ソウォンは幼い頃から沢山の書物を読み漁って来た為、大抵の書物は読んだことがあるのだ。

「当たるも八卦、当たらぬも八卦とは、ここから来てるの」
「えぇっ?!」
「要するに、“≡”から“≡≡”までの八つの意味合いが、乾(けん)兌(だ)離(り)震(しん)巽(そん)坎(かん)艮(ごん)坤(こん)という卦名で、それぞれ天(てん)沢(たく)火(か)雷(らい)風(ふう)水(すい)山(さん)地(ち)の自然が割り当てられていて、これらを更に二つ重ねることで、より複雑な事象を表すことが出来るもので、人々の思想や理念を説いたものなの」
「………はぁ」

チョンアが必死に理解しようと眉間にしわを寄せた、次の瞬間。
ソウォンはチョンアの真横に座り、そっと耳打ちした。


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