世子様に見初められて~十年越しの恋慕


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「母上……」
「親は、我が子が健やかに暮らせるのが一番の幸せなのですよ、媽媽」
「………」
「これまで、世子様はお優しかったですか?」
「………はい、母上」
「それならば、母は何も言うことはありません」
「あの御方だからこそ、この十年という長い月日を何不自由なく過ごせたのです」

ダヨンは母親のウンヒと共に庭先で夜月を眺めながら、生まれて初めて母親に胸の内を打ち明けた。

ダヨンは幼い頃から物静かな性格で、両親に逆らった事など一度も無い。
両親が兄であるピルホに手を焼く姿をずっと見ていたせいか、ダヨンは迷惑を掛けないようにと気持ちを表に出さぬ性格になってしまった。

入宮してから年に数回しか実家に帰れず、御子がいない身ゆえ、実母を頻繁に呼ぶことも出来ず。
ダヨンは口にしないだけで、本当は心細い生活を送っていた。
そんなダヨンを気にしたヘスは、心が病まぬようにと底抜けに明るい性格の女官を付けてくれた。
それがダヨンにとってどれほど嬉しかったか。
ダヨンはこれまで見せた事の無いほどの饒舌ぶりで、母に幸せな日常を話したのだった。


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弘文館を後にした世子とその護衛数名は、漢陽の外れにある小さな家の前に到着した。

「ここがそうなのか?」
「はい、世子様」

ヘスは家を前にして、緊張していた。

「ヨシ、参るぞ」


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