世子様に見初められて~十年越しの恋慕


遡ること数日前。

父親である国王から呼び出され、景福宮の後苑である香遠亭(ヒャウォンジョン:東屋)を訪れた。

池には睡蓮が咲き誇り、爽やかな風が心地よく、久しぶりにゆっくりとした時間が流れる。
国王の康宗(カンジョン:イ・クス)は、尚宮に茶膳を用意をさせると人払いをし、ヘスと二人きりで茶を嗜む。

康宗は表情を一変させ、ヘスとは別に密偵に探らせていた内容を話し始めた。

ヘスが突き止めた回青の闇取引で得た大金を使い、領議政が私兵を集めていることが分かった。

高級官僚(役付など)ともなれば、両班の出身者も多く、どこの家門でもある程度の私兵を持っていたりするが、大金を使って集めるほどの私兵となると、官軍(国の武官)に対抗する為の策と思われる。
要するに、王に対する謀反の兆候というわけだ。

領議政のチョ・ミンジェは欲深い男。
最大勢力の派閥の長である事もあり、下手に動く事すら出来ない。

チョ・ミンジェは勘の鋭い男でもある。
息のかかる重臣を従わせ、幾重にも策を講じて来るだろう。
それだけに、康宗にとって決して見過ごせないのである。

「父上、私にお任せ下さい」
「相手は手強いぞ」
「怯んでいては、敵の思うつぼです」

意を決したヘスは口を真一文字に閉じ、真っすぐ康宗を見据えた。
康宗は懐から馬牌(マペ:暗行御史の証票)と王の分身を表す玉牌(オクペ)を取り出し、下賜した。

すると、康宗は思いがけない言葉を発したのだ。

「気になる娘がいるようだが………」
「ッ?!」


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