世子様に見初められて~十年越しの恋慕
「では、刺客に襲われた件も踏まえて、父上に報告しに行かねば…」
「私がここにいては怪しまれてしまうので、居所に戻ります」
「そうだな、その方が良さそうだ」
「ソウォン様、あと一日しかありません」
「分かってるわ。何としても解明しなければ…」
「必要なものはシビに届けさせます」
手当てが終わったダヨンは、丕顕閣の裏戸から隣の資善堂へと向かった。
室内に残った二人。
無意識に視線が絡み合う。
ダヨンの血が付いたソウォンの夜着を見て、ヘスはソウォンが怪我をしてないか今一度確認する。
「私は大丈夫ですから」
どんな掠り傷であっても許せないヘスは、ソウォンの言葉で漸く安堵した。
「心配かけるな」
「申し訳ありません」
ヘスの長い腕がソウォンの体をきつく抱き締める。
久しぶりの抱擁にソウォンの顔が赤く染まった。
衣から香る白檀の匂い。
すっかり記憶された幸せの余韻は、すぐさまヘスの視線によって遮られた。
「ん?」
「あっ…」
抱き締めることで胸に当たって気づいた違和感。
硬い何かがあると思ったヘスは、抱き締める腕を解き、ソウォンの胸元に視線を落とした。
ソウォンは胸元に隠した竹の書簡と暗号を解読した紙と、香遠亭から持ち帰った地図らしき紙を取り出す。
「これが、先ほど言ってた暗号に関するものです」
それを手に取ったヘス。
以前、戸判の屋敷で見た竹の書簡があることに驚く。
「これは……」
「はい、あの時のです」
「これが亡くなった叔母の残した暗号だったとはな」
ヘスが地図らしき紙を手にした、その時。
部屋の外から鈴の音がした。
「ヒョクが戻ったようだ。ここで待ってろ」
「はい」
ヘスはソウォンの手をぎゅっと握り、安心させる。
そんなヘスに『いってらっしゃい』と言わんばかりに頷いたソウォン。
白檀の残り香を置き土産にヘスは隠し戸の向こうに消えた。