世子様に見初められて~十年越しの恋慕
「着替えをお持ちしました。茶菓子の用意も致しましょうか?」
「そうだな」
「今宵はこちらでお休みに?」
「あぁ」
「報告書はお済みになられたのですか?」
「ん、漏れが無いか確認すれば…」
王命の報告書を纏めていたヘス。
そこへソウォン達が飛び込んで来たため手が止まってしまったが、領議政の所業は書き終えている。
ヘスは隠し部屋にいるソウォンに着替えを渡し、執務室に戻った。
ダヨンから聞いた詳細を手短にヒョクに説明すると、ヒョクは驚愕した。
そんなヒョクの肩を叩く。
自身もすっかり騙されていたのだから、身も蓋もない。
「今回の件で多くを学んだな」
「はい」
隠密に調べる時はとことん徹底して調査する術を学んだヘス。
王という唯一無二の存在になるには、犠牲の上に成り立つという事を。
それが例え、息子の人生に関わる事であっても…。
ヘスは東宮殿一帯の護衛を厳重に指示し、王の元へと急いだ。
※ ※ ※
ソウォンらが刺客に襲われた事は既に影の組織の者から報告を受けて知っていた王だが、ダヨンが負傷した事までは把握してなかった。
世子の護衛だけでは安心できぬと、王は自ら東宮殿一帯に禁軍(王直轄の軍兵)を配置した。
ヘスは報告書を手渡し、丕顕閣へと舞い戻る。
※ ※ ※
「んっ、ん」
隠し部屋の戸の前でぎこちなく咳払いするヘス。
中に想い女人であるソウォンがいるかと思うと、無意識に緊張する。
静かに開かれた戸の奥に頭を下げるソウォンの姿があった。
「顔を上げよ」
「拝謁致します」
「畏まらなくていい」
「…………はい」
二人の間に微妙な空気が漂う。
世子として目の前にいるのではなく、一人の男として慕う女性のそばにいたいだけ。