世子様に見初められて~十年越しの恋慕


「ソウォン」
「………はい」
「これだけは約束してくれ」

ヘスはソウォンの耳元に優しく囁く。
そして腕を解き、ソウォンの体を自分の方へと向き直らせて。

「この先どんな困難があろうとも、そなたを決して手放さぬゆえ、そなたもこの手を手放すな」

ヘスの両手はソウォンの両手を優しく包み込む。
この先、王位を継ぐ日が来たとしても、変わらずそばにいて欲しくて。

「はい、世子様」

自然と絡み合う視線。
ソウォンの大きな黒目に自分が映り、ヘスの心は満たされてゆく。
最愛の人が自分だけを見つめてくれているのだと。

*****

静まり返る室内。
それだけでも胸の鼓動がけたたましく鳴り響いてるのに、白檀の香りに包まれたら思考が完全に停止した。

杯を交わさないとならないのに、手が震えてどうにもならない。
すると、世子様が予想だにしない行動に。
突然唇を奪われたかと思えば、お酒を口移しって…。

初めて尽くしに何もかもが夢のようで。
すぐ目の前にいて、手を伸ばしたら今にも触れられる距離にいるという事があまりにも非現実的で。
瞬きも忘れて見入ってしまう。


夢ではないのだと実感したくて、袂から巾着を取り出す。
そして、中からオクカラクジを取り出すと、世子様は満足そうにそれを手にして、私の指に嵌めてくれた。
あまりにも嬉しくて…。
思わず笑みが溢れ出した。

「ありがとうございます、世子様」
「っ、そういう顔は他の者に見せるな」
「へ?んッ……」

後頭部を支えられたかと思えば、次の瞬間には体がぐらりと傾き、気付いた時には夜具に組み敷かれた。
彼の熱情が降り注ぐ。
壊れ物を扱うみたいにそっと優しく頬に触れる指先。
確かめるように唇まで伝い何度も撫でて…。
熱を帯びた視線に囚われていると、彼の唇から甘い吐息が漏れた。

「もう、……我慢はせぬ」




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