世子様に見初められて~十年越しの恋慕
ソウォンは深呼吸して腹の底から力を込め、肩に回した世子の腕を強く掴み、もう片方の手で怪我をしていない方の世子の脇腹を支えた。
そして、奥歯をぎゅっと噛みしめ、川へと足を踏み入れた。
太腿ほどの水位のある川を無我夢中に渡る。
時折石に足下を掬われ、態勢を崩しながら……。
何とか無事に川を渡り切り、安堵するのもつかの間、すぐさま茂みの中へと進んで行く。
川からだいぶ離れた事もあり、一旦足を止めた。
「世子様っ、大丈夫ですかっ?!」
「………私の事は………放っておいて……逃げるのだ。………そなたを……危険に……晒したくない」
「私の事はどうでもいいんですっ!今は、怪我の手当てをせねば……」
まだ会話する気力はあるようだ。
ソウォンは再び全身に力を込め、先を急いだ。
暫く進むと、斜面の中腹に大きな岩が重なり合うようになっている場所を見つけた。
ソウォンは一先ずそこで手当てする事にした。
岩肌に凭れかかるように世子の背を預け、衣が破けている脇腹部分に顔を近づけた。
刃物で切られたような破れ方をしているが、出血自体もそれほど多くない。
けれど、少し前から世子の体がぐったりとし、手のひらの脂汗が増えたような気がする。
ソウォンは一抹の不安が過った。
「世子様っ、失礼致します」
ソウォンは何度目か分からぬ悪行を働こうとしていた。
ぐったりとしている世子の上衣の結び目を解き、肌着の結び目も解いた。
本当であれば拝む事さえ出来ぬ世子の肌に触れ、傷口を陽の光にかざすと……。
「えっ……、これって、まさか………毒?!」
三寸ほどある傷口の周りは、既に土気色から紫色に変色しつつある。
すぐさま世子の手を取り、脈診をする。
「……頻脈だわ」