世子様に見初められて~十年越しの恋慕
少年の吐息が頬にかかり、ますます顔が上気する。
ソウォンは恥ずかしさのあまり、火照る頬に手を当て俯くと。
「ん?……何の匂いだ?」
少年はくんくんと鼻を鳴らし、ソウォンの胸元へと……。
パチンッ!
「変態!」
「変態だと?!」
辱めを受けたと思ったソウォン。
無意識に少年の頬を叩いていた。
両班の娘にとって、嫁ぐその日まで殿方の目に触れぬように育つのが良いとされている。
だが、唇が触れそうな距離であったり、胸元に顔を寄せるなど……羞恥の極み以外の何物でも無かった。
「身なりからして両班なんでしょうけど、そんなこと関係ないわ!私だって……」
「私だって何だ?もしかして、自分も両班の娘だと言いたいのか?」
「そうよっ!こう見えても歴とした両班の娘よ!」
ソウォンが言い返すと少年はフンッと鼻で笑った。
「何がおかしいのよっ」
馬鹿にされた感じが我慢ならなくて、きつく睨み返す。
「私がどこの誰だか知ったら、腰を抜かすわよ?!」
「フッ」
「何よ!」
「お前こそ、私が誰か知ったら、心の臓が止まるぞ?いや、この私に平手打ちしたのだ。極刑は免れんぞ」
「それ、どういう意味?まさか、自分は王族だとか、まかり間違って世子だとか言うんじゃないでしょうね?」
「おっ、よく分かったな。こんな恰好をしているが、私が正真正銘この国の世子だ」
「プッ」
「何がおかしい」
「どこをどう見たって世子なわけないでしょ!あなたが世子なら、私は世子嬪(セジャピン:世子の正室)よ!」