世子様に見初められて~十年越しの恋慕


「フッ、お前が世子嬪とな?」

ソウォンに対し、挑戦的な視線を向ける少年。
彼こそが、正真正銘この国の世子である。

ソウォンの態度に気分を害した世子。
父親である国王でさえ、息子に手を上げた事など一度たりともない。
世子のヘスは、これ以上ない程の屈辱を味わったのだ。

「ならば、此度の世子嬪揀擇で世子嬪に選ばれて当然という事だよな?」
「えっ?」
「まさか、自信がないのか?」

世子嬪揀擇に申告出来る身分とはいえ、必ずしも選ばれる確証など何処にもない。
それどころか、揀擇に申告されたくなくて、身分を偽って素行悪く振舞い、悪評を広めようとしていたのに……。
言い返すことが出来ず固まっていると、世子は胸元から何かを取り出した。

「お前が世子嬪だと言うなら、これを持っているといい」
「へっ?」

無理やり手渡されたのは、黄金に輝く小さな指輪。

「トルパンジ?」

ソウォンの手のひらに乗せられたのは、一歳の誕生日に贈られると幸せになるというトルパンジ(小さな指輪)。
太陽の光が反射して、眩いほどの光を放っている。
金は富を意味し、財を成すという願いが込められたトルパンジ。
愛する子供への親の愛情が窺える。

「何故、これを私に?」

不可解に思ったソウォンは指輪を返そうとした、その時。

「ここでしたかっ!お怪我はありませんか?!」

血相を変えた大人数名が駆けて来た。

「あぁ、大事ない。心配かけてすまぬ」
「ご無事なら構いません」

慌てようが尋常でない。
言葉遣いも、大の大人が子供に対して遣うものではない。
両班の息子だと思っていたが、もしかしたら本当に世子なのかもしれない、ソウォンはそう思った。


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