毒舌王子に囚われました


「来なきゃ眼鏡ぶっ壊すぞ」


それは、困ります。これがなきゃわたしは、家に帰ることも、仕事に行くこともできません。

慌てて秋瀬さんに近寄る。


「き、来ましたけど……?」

秋瀬さんの前で膝をつき、中腰になる。先輩を見下ろすのは失礼かなと思ったからだ。


「犬みたい」

「え?」

「忠犬ハチ公」

「だだ、誰がハチ公ですか!」

「吠えんなよ、犬」

「い、犬とか、言わないで下さい」

「褒めてやってんのに」

「え……」


そりゃまぁ……ハチ公は、良い子かもしれないけれど。

でも、なんだか見下されているような気がするのはなぜでしょうか。

にしても、本当に色男。

会社で見かけるスーツ姿もカッコイイけれど、今みたいに白いTシャツに少しゆったりした黒のパンツをはいている姿もどこぞのモデルですかと息を呑む。

と、手にしていたタブレットをそばにあったテーブルにそっと置く。そんな当たり前の仕草でさえ絵になる。


「……見すぎ」

「ひゃっ、」


視界がうもれる。

倒れ込んだのは、大きな胸板。

細身なのに、さすがは男性といいますか。しっかりとわたしを、包み込んでくれる。


――うそ。


え、なんで、わたし……

秋瀬さんに、抱き寄せられているんですか?


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