毒舌王子に囚われました


どうして受け入れてしまっているのだろう。

……秋瀬さんのこと。


「嫌じゃないです、けど……」

「けど?」

「勘違い、してしまいそうです」

「なにが」


ねぇ、秋瀬さん。

さっきから、わかっていて……敢えて聞いていませんか!?


「……こ、こんなの。恋人同士がすることじゃないですか!」

「こんなのって?」

「……っ、」


お願いです。それ以上耳元で囁くの、やめて下さい……。

「ハグ、なんて」


あぁもう。

言わせないで下さいよっ……!!


少しの沈黙のあと、
「それもそうだな」と秋瀬さんがわたしを離した。


悪魔に解放されて胸をなで下ろすべき場面なのだろうけれど、ホッとするどころかモヤモヤした気持ちになっていることに気づく。

今の沈黙の意味が、知りたくて。


秋瀬さんは、わたしを恋人にはしたくないってことですか?

それなのに……

今みたいなことは、平気でできるのですか?


「秋瀬さんって、案外チャラいんですね」

「あ?」

眉をひそめる秋瀬さんにひるむことなく、
「だって、そうでしょ。普通は、しませんよ」と続けた。


きっと会社では、猫をかぶっているんだ。

耳に入ってくる秋瀬さんの噂といえば、仕事ができるとか、高学歴だとか。

その上整った顔をしたクール系イケメンなのに、恋人の影が一切ないとか。

『秋瀬一縷は、女に興味がない』なんてゲイ疑惑も浮上している。


なのに、ふたをあけてみれば本人はこんなにもチャラい。

おまけに毒舌。上から目線な、いわゆる俺様。

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