毒舌王子に囚われました


ねぇ、秋瀬さん。

どっちが、本当のあなたですか?

意地悪だと思ったら、優しくもなる。その比率は、意地悪9で優しさが1って感じだけれど。

その優しさが、無性にあたたかい。

ただの意地悪な人だったら、こんなにドキドキせずに済むのに。

いただいたお風呂は、芯まであたたまったし。

朝ごはんは美味しかったし。

おまけに服まで洗ってもらって。……着ていた物は捨てられてしまったが、それは自分に落ち度があったせいだ。

至れり尽くせりというか。改めて今の状況を考えると、めちゃめちゃお世話になっている。


「料理はよくするんですか?」


わたしは、朝ごはんは菓子パンなんかで済ませることが多い。食パンを焼いても、バターを塗るくらいだ。

一方秋瀬さんの作ってくれた朝食は、6枚切の食パン――こんがりと焼けたものに、スクランブルエッグがのっていたのだが。

卵のふわっふわな焼き加減と味付けが絶妙で。

食欲はそんなになかったものの、食べた瞬間そんなことを忘れてしまうくらい美味しかった。

某国民的アニメ映画のヒロインの台詞を借りると、
『秋瀬さんのキッチンって、魔法のキッチンね……うふふ』だ。

あれはキッチンでなく鞄から直に出てきたし、パンにのっていたのはスクランブルエッグでなく目玉焼きだったけれども。

インパクトはそれに匹敵する。


「毎日する」

「スーパーでお惣菜買ったり、外食したりしないんですか?」

「できたものは滅多に買わないな。外食は、極力したくない。どうしても断れない付き合いでだけする」

「それって、接待とかですか?」

「そうだな」

ここで男の人が料理をするのは意外だと思ってしまうのは、偏見なのだろうか。


「秋瀬さんのごはん、毎日食べられたら幸せですねっ」

って、わたし。さっきから話しかけすぎかな?

でも、秋瀬さんはそっけなくても全部答えてくれている。それが、なんだかちょっと嬉しい。


「作ってやろうか?」


……へ?


「なに、を?」

「これから俺が作ってやってもいいけど」

「は?」

「1人分も2人分も、手間はそんなに変わらないだろ」
こっちを見ずに、洗い物を続けながら答える秋瀬さん。

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