毒舌王子に囚われました
「とにかく、秋瀬さん。手すり、つり革は持ちましょうね?」
といいながら、バスの車内アナウンスみたいなフレーズだなと思った。
「問題ない。出勤は、基本的には車だから」
ああいえば、こういう。
「秋瀬さんって、意外と子供っぽいですね」
言い終わった直後に〝まずい、キレられる〟と悟ったが、秋瀬さんは言い返してはこなかった。
いや、だから、そこで黙られると逆にこわいんですってば。
「お前といると、学生時代に戻った気分になる」
「……え?」
「これまで、1人だけ平気なやつがいた」
「平気って……」
「触れても平気なやつ」
「…………」
秋瀬さんの潔癖は、今に始まったことじゃないらしい。
「そいつといると、気を使わずに済んだ」
「女の子、ですか……?」
「だったら?」
「……へ?」
「だったらなんだよ?」
「……っ、別に、なんでもないです」
また、そうやって、聞き返す。
わかっているくせに。
それが女の子なら、ジェラシーを感じるって……。
「教えてやらない」
いじわるっ……。
「どうしても知りたいなら、可愛くねだってみろ」
「ねだりません!」
わたし、自分が思うよりずっと、秋瀬さんのことが、気になっているんだ。
認めたくないくらい……。