毒舌王子に囚われました
「土生」
――!
振り返ると、秋瀬さんが部屋の入口に立っていた。
「ここにいたのか」
初めて名字で呼ばれた。てっきりわたしの名前、覚えていないのかと思いましたよ。
「すみません……勝手に入って」
「映画は?」
「全部、見ましたよ!」
「へぇ。てっきりビビるかと思ったけど」
「怖かったです。怖かったですけど……面白かったので」
秋瀬さんが隣にいてくれたから、心強かったですし。途中で寝ているとは思いませんでしたが。
「これ」
「え?」
秋瀬さんが手に持っていたのは、さっきわたしが秋瀬さんにかけた毛布。
「寝室用だ。リビングに持ち込むな」
「で、でも。秋瀬さん風邪ひいたらやだなって思って……うわぁっ」
わたしに毛布を投げつけてくる秋瀬さん。その毛布を慌ててキャッチしようとしたら、頭からかぶってしまった。
怒ってる!?
「す、すみま」「ありがとな」
……え?
秋瀬さんが、お、お礼いった?
「こんなことされたのは……初めてだ」
「秋瀬さん、もしかして、喜んで……」「んなわけあるか。勝手なことすんな」
えぇええ!?
「まぁいい。続編見るか?」
「えっ、続きあるんですか!」
「もっとグロいけど。それでもよければ」
それは困る。あれ以上のものは、ちょっと勇気がいるから。
「先に飯にする?」
「いや、あの……食欲ないです」
あの映画のあとに、食事はキツいです。
「っていうか、秋瀬さん! わたしのスーツ……」
「あぁ。見つかったか」
「汚れたって、冗談だったんですか?」
「あのなぁ……俺がどれだけ苦労したと思ってんだよ」
ってことは、やっぱり、洗ってくれたんだ。
「ありがとう……ございます」
わたしが酔いつぶれた間、汚れたスーツを洗ってくれていたなんて、申し分けなさすぎる。