毒舌王子に囚われました
わたしの、初めて……?
「キス、とかですか」
「なんだ、キスもまだなのか」
……墓穴を掘ってしまった。
自分の発言に後悔した直後、秋瀬さんが唇を重ねようとしてきた。
それを左右によけるも、グイっと正面に戻される。
「やっ……」
投げやりのキスなんて、嬉しくもなんともない。
「こんなの、嫌です」「知ってる」
――!
わたしを見下ろす色男の、悪魔みたいな笑みに一段と磨きがかかる。
今、秋瀬さん、レベルアップしましたか?
悪魔に心を奪われてしまったのは、認めざるを得ないけれども。
身体まで、あげたくないよ……。
「気持ちのないキスは嫌なんだよな?」
「……! わかっているなら、どいて下さい」
「気持ちならある」
「……は?」
「稚沙都のこと、屈服させたくて仕方ない」
クップク!?
「そんな気持ち、怖いです……いらないです!」
「生意気なやつ」
「ど、どこがですか」
「黙って奪われとけ」
――!
噛みつくような、キス。
息が――できないっ……。
「へぇ。いい顔するじゃないか」
唇を離すと、そう満足気にいう。
「酷いです……」
「そんな顔見てると、もう一度したくなるんだけど」
もう一度?
「やめたほうがいい?」
そんなこと、ない。
わたし、もう一度……秋瀬さんと、キスしたい。
でも、こんなの……
「今俺を拒絶したら、二度とお前とはキスしてやらない」
「やっ……やめ、ないで下さい」
「そうだ。稚沙都は、俺に従順でいればいい」
すっかり力の抜けたわたしの手首をつかんだ手を離すと、わたしから眼鏡を奪う。
「ちょ……」「こんなの邪魔だろ」
そういうと、再び、唇を落としてくる。
あたたかい。秋瀬さんのぬくもりが、伝わってくる。
どんな関係でもいい。
だから、この人のそばにいたいと……思えてならない。
きっとそんなのは、わたしの思い描いている男女関係とは、まったく別物なのに――。