毒舌王子に囚われました


「ベートーベンは、見た?」

「セントバーナードのコメディものですよね……!」

あれは、笑いが止まらなかった。

「悪者を退治したり、お父さんが犬は飼わないって頑なに拒否してたくせにすっごく仲良くなっちゃうんですよね」

「よく知ってるじゃないか」

「秋瀬さんこそ。好きなんですね、動物」

「全然。浅く広く知ってるってだけ」

「へぇ……そうなんですか」

「話のネタに使えるからな。接待がゴルフや女のいる店に飲みに行くだけだと思うなよ?」

「仕事のために、映画見るんですか?」

「映画、音楽、本、酒。なんでも流行りものとメジャーなものはチェックしてる」

「そうなんですか?」

「あれもこれも知りません、より……『私も見ました』って話が繋がる方が会話は盛り上がるだろ」

それで、色んなことを知っているの?

秋瀬さんは、余暇をも仕事に費やしていそうですね。

「……でも」と、秋瀬さんの声が少し小さくなった。

「でも?」

「昔、犬を飼ってみたかった」

「やっぱり好きなんじゃないですか」

全然とかいっておきながら、ツンデレですか。

「別に。好きになるほど触れ合ったことはない」

「……飼ってみたかったけど、飼わなかったんですか?」

「飼わなかったんじゃない。飼えなかったんだ」

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