毒舌王子に囚われました


ペットを飼えない理由は、2つ思い浮かぶ

まず1つ目は、ペット禁止のマンション暮らしをしていたから。

それから2つ目は、秋瀬さんの家族ないし秋瀬さん本人が動物アレルギーだから。


「アレルギーとか、飼えない環境だったんですか?」

「まぁ、環境といえば環境なのかな」

随分と曖昧な返事をする秋瀬さんの唇に、ついつい目がいってしまう。

さっき、わたしは、あの唇と――。


「俺の親、極度な潔癖性でな」

「え……」

潔癖性……って、平たくいえば、かなり綺麗好きな人のことだよね?

ちょっとの汚れも許しません、みたいな。


「そんなこともあって。ペットなんて飼える家じゃなかった」

「そうだったんですか……」

「お前は、飼ったことある?」

「はい、大型犬を」

「……犬が犬の世話か」

そういって笑う秋瀬さんに、『誰が犬だ』と怒る気になれなかった。

秋瀬さんが、なんだか寂しそうに見えたから。


「うちが普通じゃないってことは、子供心にわかってた」

「え……」

「〝異常〟のひとこと。友人を家に招きたいといってみたところで、『汚いから呼ぶな』なんていうんだ。信じられるか?」

そんな……。

「お父さんも、お母さんも?」

「親父はほとんど家にいなかったから、会話すらまともにした記憶ないよ。母親はずっと家にいた。仕事だってしてない。時間ならもてあますほどあったろうに、あの女は……」

「……?」

「俺を、シッターに育てさせた」


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