毒舌王子に囚われました


秋瀬さんは、続けた。


「俺があの女にされた教育といえば、外から汚れを持ち込むなとか、食べ終わった食器をすぐに洗えとか。思い返せば、ヒステリックに何度もキレられたよ」

「…………」

「なんであんな女を親父は選らんだんだろうな。俺なら絶対養いたくねぇわ。って……こんな話つまらねよな。いいよ、次はお前が好きなの選んでも」

タブレットを差し出してくる秋瀬さんを、思わず――抱きしめてしまった。

「……稚沙都?」


なんでだろう。

自分でもわからないけれど、無性に秋瀬さんを抱きしめたくなった。

秋瀬さんが仕事以外では他人を寄せ付けないのも。

すぐに服やシーツを洗いたがるのも。

人に、触れられないのも……

生まれ育った環境が、そうさせたの?

お母さんに、こんな風に、抱きしめてもらったこともないの?

「……俺が、可哀想?」

「違っ……」

「だったら、なに。さっきの続きしたくなった?」

「……!!」

「俺の口元ばっかり見やがって」 

なんでバレてるの!?

秋瀬さん、あなたはトンボですか。正面を向いたまま、ぐるりとまわりが見渡せちゃうんですか。

「俺はそんな気ないのに……エロい女」

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