毒舌王子に囚われました
昼休み。
食堂へ向かう途中、今日は会社で秋瀬さんを一度も見かけていないな……なんて考えていると、前方から秋瀬さんが歩いてくるのが見えた。
隣にいる男性社員と話をしていて、こっちに気づいていないようだ。
「あ、秋瀬さん発見」と甲高い声で嬉しそうにつぶやくのは、同期の加藤莉菜。一般事務をしている。
「外回り終わったんだな」
莉菜の隣にいるのは、これまた同期の佐久間崇司。佐久間くんは営業なので秋瀬さんの部下にあたる。
もうすぐ、秋瀬さんと、すれ違う。
どんな顔して会えばいいか、わからない。
だんだん秋瀬さんが近づいてくるのを見て、鼓動が速まる。
「あんなイケメン営業マンとの取り引き、あたしなら大喜びだよ~。あたしとも個人契約してって感じ」
なんじゃそりゃ。
大喜びもなにも、仕事なんだから、イケメンかどうかより信頼関係を築けるかどうかじゃないのかと、心の中でツッコミを入れる。
「ずるいよな。でも、ああいうすましてるやつ程、裏では女たくさん作ってたりしてな?」
それはないよ佐久間くん。秋瀬さんは、根っからの人間嫌いだから。
それにね、秋瀬さんが成果をあげているのは、間違いなく努力しているからだよ。
それをずるいっていうのは、どうかと思う。
「ひがむな崇司。あんたもなかなかイケメンだとは思うよ? でも、秋瀬さんには遠く及ばないや」