毒舌王子に囚われました
「風呂、入ってくる」とネクタイを緩めながらいう秋瀬さん。
「えっ」
「……? なんだ?」
不思議そうにこっちをみる。
「聞かないんですか、伝言」
「間違い電話だろ」
「ち、違いますよ。秋瀬さんの名前呼んでたので。急用みたいでしたが」
「急用?」
「……泊めてくれないかって」
「…………」
秋瀬さんがネクタイを緩める手を止めて、電話の留守電再生ボタンを押した。
留守電が再生され、それを聞いている秋瀬さんの表情は少しも変わらない。
再生が終わるとメッセージを消去した秋瀬さんは、どこかへ歩き出す。
……玄関じゃない。風呂場だ。
いいの? 連絡しなくて……
親しい人なんじゃないの?
もちろん、連絡なんてとって欲しくないし。
泊まりに来てほしくなんて、ないけれど。
気づいているのに無視したことに、驚いた。
秋瀬さんの冷たい一面を見てしまった。
電話の向こうで秋瀬さんを待つ女性が、未来のわたしになるんじゃないかなんて、うっすらと、そんなことまで考えてしまった。
今ひとつわたしは、秋瀬さんのプライベートに、踏み込むことができそうにない。