毒舌王子に囚われました


 *


裸でベッドに寝そべる秋瀬さんを、隣からじっと見つめる。


「なんだよ」

「なんでも……ないです」

秋瀬さんと、また、ひとつになれた。

それが嬉しくてたまらない。


「5時間ほど前に口にした刺し身が、死ぬほど不味かった」

「えぇ……?」

接待といえば、美味しい料亭とか、お寿司屋さんはお寿司屋さんでもまわる方じゃなくてカウンターのお店とか……

高級そうなイメージがあるけれど。

他人が素手で調理したってだけで、秋瀬さんにとってはそれが嫌なんだよねきっと。

「すげぇ美味そうに食ってやったがな」
ちょっと満足げにいう秋瀬さんが、なんだか子供みたいで笑える。

「……さすがです」

疲れきって眠いはずなのに、こうして話をしてくれるのが、嬉しい。

「なぁ、稚沙都」

「はいっ」

「どうすれば、お前のこと、もっと俺のものにできるかな」

「え……?」

「俺、お前の手料理なら食べれる気がしてきた」

「え……」

「つーか、食べたい。食わせろ」

「じゃ、じゃあ。明日から、夜は私が……!」

「頼んだぞ」

どういう心境の変化ですか、秋瀬さん。キッチンに立っていいんですか?

洗い物して、怒りませんか!?

「お前、会社辞める気ない?」

「や、やめる気……?」

んん?

もしや、わたしに、専業主婦になれとおっしゃっているのですか……?

いや、それはさすがに都合よく考えすぎかな。

でも、なんか今のは……プ、プロポーズみたいではないですか。

いや、ひょっとして、家政婦ですか?

わたしに、家政婦になれと!?

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