毒舌王子に囚われました


なんとなく、今なら聞ける気がした。

少し間があいたあと、
「……あの夜、接待を終えた俺は、取引先の方々をお見送りして自分も車を拾おうとしていた」と秋瀬さんが口を開いた。

ついに明かされる真実に、聞き耳をたてる。

秋瀬さんは、続ける。

「すると、どこかで見たオッサンが、これまたどこかで見た眼鏡女の肩を抱えて歩いていた」

「……え?」

もしかして。

それって……いや、もしかしなくても……

「牧田部長とわたしですか?」

「そういうこと」

「…………」

ということは、飯野先輩がいっていた、同じ方角だから送ると申し出たのは……牧田部長なんだ。

それで、なんで、わたしは部長から秋瀬さんにバトンタッチされたの?


「タクシー乗り場とは真逆に歩いてた」

「真逆に……?」

「おおかた、ホテルにでも連れ込もうとしてたんだろうな」

「……えぇ!?」

そんな。まさか。

……いや、それほど意外な展開でもないような気がしてきた。

会議室で部長にされたこと。

食堂で佐久間くんから聞いた話。

それらを踏まえて考えてみると、今の秋瀬さんの話は、一気に真実味を増す。

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