毒舌王子に囚われました
もっとも、わたしは秋瀬さんの話を1ミリも疑うつもりなんてない。
「それならそうと、どうして言ってくれなかったんですか?」
「信じたか?」
「え……」
「俺が話したところでお前、あのときは牧田の犬だったんだろ」
「別にっ……わたしは……」
部長の犬などではないですよ?
「覚えてないなら、知らないままの方がいいだろう。尊敬してる上司の、裏の顔なんて」
「秋瀬さん……」
わたしが、牧田部長に対して幻滅しないように、気を使ってくれていたんですか……?
今となっては、もう、会議室の一件で部長に対しての憧れのイメージは一気に崩れてしまったが。
それまでは、とても憧れていた。
上司としても、一人の男性としても。
「助けてくれて、本当に、ありがとうございます」
それから、わたしの気持ちを考えてくれて……ありがとうございます。
「……助かったのか?」
「え?」
だって、秋瀬さんに連れて帰ってもらわなければ、部長とホテルに行っていたんですよね。
それは、マズいです。
危うく……不倫するとこでした。
「そりゃ、助かりましたよ?」
「俺にこんな風に捕まえられて、それでも助かったっていえんの?」
「え……」
「オッサンは、1回遊んだら終わったかもしれない。でも俺は違う。稚沙都のこと、もう一生離す気ないんだ。どっちが地獄かな」
「秋瀬さんと一生過ごせるなら……それは、わたしにとって地獄じゃないです。むしろ天国ですよ」
「……なんで、そんなバカなの」
「バカじゃないです……、好きだからです!」
「人の気持ちなんて、すぐに変わるだろ。俺のこと嫌いになっても、俺はお前のこと離さないけど、それでも天国なわけ?」