冷徹ドクター 秘密の独占愛
地面に点々と落ちる赤い跡。
バッと体を離して律己先生の姿を見る。
「せっ、先生、手が……!」
私を抱き締めていた手を取ると、右手親指の付け根からざっくりと刃物で切られた痕がある。
滴る血を目に、慌ててバッグに手を入れハンカチを取り出した。
「大丈夫だ、大した傷じゃない」
「でも、出血がこんなに!」
震える手で傷口にハンカチを当て、ぎゅっと圧迫する。
「私のせいで、先生がこんな……ごめんなさい……私――」
「お前のせいじゃない」
必死に止血しようとする私の手を、律己先生はもう片方の手でそっと包み込む。
その表情は、ホッとしたような安堵した微笑を浮かべていた。
「無事で良かった」
恐怖とショックと、そして憤りと。
あらゆる感情がごちゃ混ぜになって、それ以上言葉が出てこなかった。
ただ涙を流しながら、血が滲んでくるハンカチを押さえていた。