冷徹ドクター 秘密の独占愛
「お母さんが今行ってる歯医者、ほら、すぐそこの」
「……小山先生?」
「そうそう! 今ね、大先生が引退して、若先生がやってるんだけど、今度勤めてた助手さんが辞めるらしいのよ。で、娘がこっちに帰ってくるかもって話したら、衛生士さん雇いたいって言ってて」
小山先生は、うちの実家がある住宅地に病院を構える歯科医院。
私が子どもの頃からあり、歯医者は小山先生のところに私も通っていた。
その当時の院長が引退し、今はその息子が跡を継いでいるらしい。
「あんた、小山先生のところで雇ってもらったら? こんな田舎なら変な患者も来ないだろうし、患者はみんなご近所さんだし、いいじゃない」
“変な患者”というのは、津田さんのことのようだ。
例の一件は、両親にもさらっと事情は話している。
「えー……近すぎじゃない?」
「何言ってんの、近いに越したことないでしょ。そんなにバタバタ忙しい感じでもないし、ね! 今日の午後、予約してるから、早速話してみるわよ」
私の微妙な反応も全く無視で、母は勝手に話をまとめてしまう。
掃除機のコンセントを収納すると、「じゃ、二階はよろしくね」と言い残しリビングを出ていった。