冷徹ドクター 秘密の独占愛
「あのっ、律己先生?!」
肩を抱かれて攫うように病院を連れ出され、歩みを止めない律己先生を見上げる。
もう何が何だか訳がわからない。
困り果てた私の声にやっと律己先生が私を見たのは、さっき通ってきたサルスベリの街路樹が続くあの通りだった。
「昨日、さっきの小山から連絡があった」
「え……」
「久しぶりに連絡をよこしたと思ったら、『先輩のところにいた衛生士がうちに来ることになった』と言うから、聞いてみたらお前のことだった」
私のことは言わないでなんてお願いしようと思ってたのに、小山先生は速攻で律己先生に連絡してしまっていたらしい。
考えてみれば当たり前かもしれない。
コンビニより多いと言われる歯科医院。
私が小山先生の立場なら、そんな偶然、律己先生に同じように知らせてしまうだろう。
「どうして嘘をついた」
「え……嘘、とは」
「元気だそうじゃないか。どこも悪いところなく、来院していると聞いた」
母親の具合が悪くないことまで知り得ていた律己先生は、会ってからずっとポーカーフェイスのまま微笑むこともしない。
全てバレてしまったことで、私の中でこれまで耐えてきた何かがプツリと切れてしまった。