冷徹ドクター 秘密の独占愛
「浅木千紗……お前はまたバックレるのか」
そこに立っていたのは、薄いブルーのシャツに濃いネイビーのネクタイをきっちりと締めた、スーツ姿の律己先生だった。
“バックレ”なんて言葉を口にした律己先生は、厳しい表情で真っ直ぐに私を見つめる。
出会った当初、恐れていたあの頃を思い出してしまった。
「り、律己、先生……どうして」
状況が把握できない私は、律己先生の顔から目が離せない。
右後ろから「先輩、あれ冗談じゃなかったんですか?!」と言う小山先生の声が聞こえた。
「小山、今まで俺が冗談を言ったことがあるか?」
無の表情を変えず、こちらに向かってやって来る律己先生に、小山先生は「それは……ないですけど」と答える。
律己先生は私のすぐ目の前まで歩み寄ると、呆然と立ち尽くす私の腕を取った。
その右手には、もうガーゼやテーピングの処置はない。
「せっかく衛生士が見つかったとこ悪いが、浅木はもらっていく」
え……えぇ?!
「悪いな」
律己先生はそう言うと、少し強引に私の肩を抱く。
「行くぞ」と言われ、医院の入り口に向かって連れて行かれていた。
背後から、「先輩、マジっすか?」と呆れ返ったような小山先生の声が聞こえた。