冷徹ドクター 秘密の独占愛


「そういえば……まだ、あの約束も果たせてなかったな」

「あの、約束……?」


嬉しいパニックで働かない頭をフル回転で考える。

「あっ!」と思い出し律己先生の顔を見上げると、「アザラシ」と二人の声がハモった。

顔を見合って、クスクスと笑い合う。


「なんなら、今から行くか」

「えっ、今からですか?!」


驚きの声を上げると、律己先生はフッと笑みを見せる。

でも、すぐに何か思い出したように「いや……」と宙を仰いだ。


「ここまで来たついでに、先に挨拶に行くか」

「挨拶……え、それって、うちにですか?!」

「ああ。娘さんをお預かりします、ってな」


絡めた指をしっかりと握り締め、律己先生は私の手を引いていく。

その温かく頼もしい手を、ギュッと応えるように握り返した。


これから先も、この手が起こす奇跡を側で見守っていきたい。

そして、もう、この手を離さない。

絶対に……離さないでいよう。


「えっ、本当に行くんですか?!」


私の幸せに満ちた弾んだ声が、サルスベリの花道に響く。

頭上で咲き乱れる色とりどりの花たちが、私たちを祝福してくれているように目に映った。




* Fin *


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