冷徹ドクター 秘密の独占愛


「確か無くしたって言ったの、千紗が大学病院の実習行ってたあたりだったよね?」


テーブルに肘を置き、頬杖をついて思い出すように目を上向いているのは、持田多恵(もちだたえ)。

黒髪の艶やかなワンレンロングヘアの多恵は、彫りが深くアジアン系のモデルさんにいそうなタイプの美人だ。

四人の中で唯一歳上の多恵は、高校卒業後一度大学進学をし、卒業後に衛生士学校に入学。

私たちの中では歳上の頼れるお姉さん的存在である。

衛生士学校卒業後は、企業内の歯科診療室に就職。

羨ましいことにそこの会社のイケメンエリートと知り合い、ゴールイン間近という幸せの真っ只中。

結婚式の報告もそろそろかもしれない。


「そうだよ、日歯(にっし)行ってたあたり!」

「あぁ……あのあたり、華世と千紗はそれどころじゃなかったもんね」


興奮気味に答えた華世に、極めて冷静な口調で返したのは柏原凛(かしわばらりん)。

お父さんとお兄さんが歯科医の家で育った凛は、学生時代から自宅の手伝いもしていて、とにかく学校でも優秀な生徒の一人だった。

授業や実習でわからないことは、いつも凛が詳しく説明してくれて、色々な場面で助けてもらった。

今は大学病院の口腔外科で働いていて、オペにも入るバリバリの歯科衛生士だ。

前下がりのクールなボブスタイルは、学生時代から変わらない凛のトレードマーク。

一重の涼しげな目元も手伝って、仲良くなるまでは怖い人なんじゃないかと誤解している時期もあった。

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