冷徹ドクター 秘密の独占愛


「抜歯するの、初めてで……結構痛むのかしら」


ニコリと笑って質問をしているものの、その面持ちは不安を隠し切れない。

私たち歯科医療従事者にとっては、抜歯は日常的に目の当たりにしているもの。

だけど、患者さんにとっては歯を抜くなんてことは一大事。

毎日見ている私だって、自分の歯を抜くなんてことになったら多少は不安になるはずだ。


「治療中は麻酔が効いているので痛みの心配はないですよ。ただ、押されている感覚とかはあるかと思います。抜歯後も痛み止めを処方しますので、大丈夫です」

「そうですか……嫌ねぇ、この歳になっても歯を抜くなんてなるとドキドキしちゃうものね」

「そうですよね、わかります。私も自分だったら同じだと思います。でも、あまり緊張しないで大丈夫ですよ」


患者さんの気持ちに寄り添うこと。

亡くなった塚田院長がいつも私に言ってくれていた。

ただ治療をするだけの病院には、患者さんは信頼して通ってくれない。

そのポリシーをいつでも持って患者さんに接しなさい、と。

私はそんな考えを大切にしていた塚田院長を尊敬していたし、いつまでも忘れずにいたいと思っている。


「浅木さん、お願いします」

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