冷徹ドクター 秘密の独占愛


患者さんと話していると、背後から迫った森さんに声を掛けられた。

いつの間にか二番ユニットには患者さんが通されていて、副院長が話を始めている。


「二番の患者さん、TBIです」

「あ、はい。わかりました」


確かこの後、九時半から予約の患者さんだ。

副院長の患者さんで、今日は前回セットしたブリッジの経過観察を含めたブラッシング指導の予定のはず。


「お願いします」

「はい!」


未だ、副院長に呼び付けられるたびに身構えてしまう。

牧先生や鮎川先生にはそんなことないのに、副院長にはそうはいかない。

もし分からない指示を出されたとき、牧先生や鮎川先生なら遠慮なく聞くことができるけど、副院長には恐ろしくて聞けない意識があるからだ。


表情が読み取れないマスクをした顔が、カルテから私へと向けられる。

何となく視線を外した状態で副院長のそばに近付いた。


「TBIを。前回セットした右下のブリッジのダミー部の清掃方法を中心に、染め出して指導」

「はい、わかりました」


指示が理解できたことにまず安堵する。

カルテの記入を終えた副院長は、そのまま隣のチェアへと行き、滅菌グローブの開封に取り掛かった。

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