冷徹ドクター 秘密の独占愛
「どうですか? 上手く当たりそうですかね?」
ブラッシング指導を頼まれた四十代女性の関(せき)さんは意識の高い方で、染め出しをするとほとんど赤く色付く場所は見受けられなかった。
厳しい目で見て歯間部に少し残る磨き残しを指摘し、ブラッシングの確認を行った。
加えて前回セットしたブリッジ部の清掃方法として、スポンジ付きデンタルフロスの使用法についても説明をした。
「はい、やってみます。丁寧に教えてもらって、ありがとうね」
「いえ、とんでもないです」
「頑張ってやってるつもりなんだけど、なかなか難しいものね、歯磨きって。こっちができてたら、今度は別の場所が磨けてなかったりして」
「そうですよね、完璧にするのって難しいと思います。でも、関さんすごくよく磨けていますよ。時間かけてブラッシングされているの、よくわかります」
「そうですか? 歯科衛生士さんにそう言ってもらえるなんて頑張った甲斐があるわ」
「この調子で無理なさらず頑張ってみてくださいね。……律己先生、終わりました」
中田さんから副院長を“律己先生”と呼ぶと聞いてから、それに習って名前で呼ぶようになったけど、未だ声を掛けるたびに無駄にそわそわする。
でも、それは要らぬ私だけの緊張で、副院長は特に何ともない様子だ。
「……浅木さん、ね」
「……?」
私のエプロンにつくネームプレートを見て、関さんはにっこりと微笑む。
そのタイミングで、副院長が「お疲れ様でした」と二番ユニットにやってきた。