冷徹ドクター 秘密の独占愛


「すいません……」


たまたま手が滑っただけだけど、これじゃタイミング的に動揺しちゃってるみたいだ。

やばいやばい、平常心平常心……。


そんなとき、控え室のドアが開いてコンビニに行ったはずの中田さんが現れた。


「優ちゃん、何、忘れ物?」


箸を手にお弁当を食べ始めた下村さんの声に、中田さんは「いや……」と私を見る。


「噂をすればなんですけど、市ノ瀬さんが来てて、浅木さん呼んでほしいって」

「んぶっ!」


落ち着くために口にしていたお茶を、今度はダイレクトに吹いてしまった。

「大丈夫?!」と中田さんが慌てる。


「ああ、うん、大丈夫……」

「何か、確認したいことがあるみたいで戻ってきたらしいですよ」

「そうなんだ、じゃあちょっと行ってみる」


不審に思われないように、努めて仕事中のような真面目な顔を作って席を立ち上がる。

心配したほど下村さんも森さんも特に何か感じ取った様子はなく、話題は別の内容に移り変わっていた。

戻ってきた中田さんと控え室を出ていくと、「診療室でお待ちみたいです」と言い残し、中田さんは靴を履き替えて再びコンビニへと出掛けていった。


わざわざ戻ってくるなんて、どういうつもり……?


明かりの落ちた診療室のドアを開けると、中はしんと静まり返っていた。

< 82 / 278 >

この作品をシェア

pagetop