冷徹ドクター 秘密の独占愛
「すいません……」
たまたま手が滑っただけだけど、これじゃタイミング的に動揺しちゃってるみたいだ。
やばいやばい、平常心平常心……。
そんなとき、控え室のドアが開いてコンビニに行ったはずの中田さんが現れた。
「優ちゃん、何、忘れ物?」
箸を手にお弁当を食べ始めた下村さんの声に、中田さんは「いや……」と私を見る。
「噂をすればなんですけど、市ノ瀬さんが来てて、浅木さん呼んでほしいって」
「んぶっ!」
落ち着くために口にしていたお茶を、今度はダイレクトに吹いてしまった。
「大丈夫?!」と中田さんが慌てる。
「ああ、うん、大丈夫……」
「何か、確認したいことがあるみたいで戻ってきたらしいですよ」
「そうなんだ、じゃあちょっと行ってみる」
不審に思われないように、努めて仕事中のような真面目な顔を作って席を立ち上がる。
心配したほど下村さんも森さんも特に何か感じ取った様子はなく、話題は別の内容に移り変わっていた。
戻ってきた中田さんと控え室を出ていくと、「診療室でお待ちみたいです」と言い残し、中田さんは靴を履き替えて再びコンビニへと出掛けていった。
わざわざ戻ってくるなんて、どういうつもり……?
明かりの落ちた診療室のドアを開けると、中はしんと静まり返っていた。