西城家の花






「すまない、また待たせてしまって…、…何かあったのか?」






敦司たちとの雑談を終え、美桜の元へ戻ってきた大志が目にしたのは、涙目で自らの二の腕を擦っている与一がにっこりとした笑みを崩さない美桜に何かを責め立てている様子だった






「いいえ、大志様。何もありませんでしたわ」






大志の姿を目にすると、与一のことなど目もくれず、一目散に大志の隣にぴたりとくっつくと、美桜は大志の逞しい腕に自身の腕を絡ませた





突然の美桜の行為に驚き、美桜に視線を向けるが、そこにはまだあのにっこりとした笑みがあった





美少女の美桜の笑顔は眩しいぐらいに美しいのだが、いつも美桜が大志に向けてくれる、見てるこっちまで笑顔になってしまうような笑みではなく、どこか機械的な、まるで表情が見えないお面のような笑顔をさっきからずーっと向けられている大志はもしや先ほど待たせてしまったせいで美桜を怒らせてしまったのではないかと思っていたのだが、たびたびこのように体を密着させてくるので、美桜の意図がまったくわからずに大志は戸惑っていた






全ては大志と恋人同士に周りに見られるためと意気込んでいる美桜はその行為が空回っていることなど全然気付かずにひたすら自分が思い描く大人を演じていた





腕を組んだ際に、また大志に神妙な表情で見つめられたのだが、色々な誘惑が溢れているこの場所でそれについて深く考えることは美桜には出来なかった





視線の先のあっちこっちに見えるリンゴ飴と金魚という出店の看板の文字に惑わされぬよう、気をしっかり張り詰める美桜であったが、花火大会の縁日で彼女を誘惑するのはそれらだけではない





水の中をぷかぷかと浮かぶ色とりどりの水風船や、カラフルなチョコレートで彩られているバナナ、それに今では珍しい型抜きの出店まで、目に映る全てのものが美桜を魅了して止まない





心が遊びたい、遊びたいと疼いている





しかしもし今、ここで欲望のまま駆け出し、心ゆくまで出店を堪能してしまったら、他の人から見たらどう見たって保護者(大志)を連れ回して遊びまくっている子供として見られてしまう





去年まではまったくその通りだったのだが、今年は違うのだ





美桜の隣にいるのは彼女の父親ではなく、大好きな大志である。結婚の約束までした婚約者様である





大志と一緒にいるのに恋人同士として見られないなんて美桜にとっては大問題なのである。折角健の助言通りの浴衣を着て、少しばかり大人っぽく見えるのだから、下手な行動でそれを台無しにしたくない美桜は数の多くの誘惑に惑わされぬよう奥歯を噛み締め、握り拳を強く固め、必死に耐える






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