溺愛スイートライフ~御曹司に甘く迫られてます~


 設計書をキリのいいところまで作成して時計を見ると、十九時を少し回っていた。花梨は作業を打ち切り、マシンルームへ向かう。

 端末を終了させようとしたとき内線電話が鳴った。イヤな予感しかしない。仕方なく電話に出る。

「ヘンナメディカル岡山支店からです」

 予感的中。岡山支店の給与担当者は気むずかしくて花梨は苦手にしていた。おまけに給与業務終了間際でこんな時間にわざわざ電話してくるということは面倒なことに違いない。
 無視するわけにもいかないので、身構えながら電話に出る。

「お電話変わりました」
「あぁ! 宮村さん、いた! よかった! 助けてください!」

 いつもは冷静でチクリと嫌みを言ったりする岡山支店の担当者が取り乱している事に面食らってしまう。とんでもなく面倒なことが起こっていると推測される。逃げ出したい気持ちを抑えて尋ねた。

「あの……状況をお聞きしてもよろしいですか?」

 幾分冷静さを取り戻した担当者は状況説明を始める。
 それによると、教育中の新人に画面操作をしてもらっていたところ、誤って今月分の給与を確定させてしまったらしい。
 確定処理をしてしまうと、その月の給与関係データは修正できなくなってしまう。画面から確定処理を取り消すことはできないので、通常は給与の支給が終了し、データ修正の必要がなくなってから実行するのだ。
 まだ入力するデータがあるので、どうにか確定前に戻せないかということだが、花梨に即答できる知識はない。

「対応について調べます。十五分以内に折り返しお電話いたしますので、少しお待ちいただけますか」
「すみません。よろしくお願いします」

 いつもなら嫌みのひとつも言いそうな担当者が、今回はさすがに自分のところの操作ミスなので頭が低い。


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