溺愛スイートライフ~御曹司に甘く迫られてます~
データのバックアップが終了し、テスト系サーバにデータを移しているとき、新條がマシンルームにやってきた。隣に座って画面を覗き込む。
「どんな感じ?」
「テスト系に移行中。もう少しかかるかな」
「テスト系にある元々のデータはバックアップ取った?」
「うん。田辺さんが色々入力してるし」
「さすが、花梨。はい、ご褒美」
そう言って新條は、花梨の前にコンビニのレジ袋を差し出した。覗いてみると、中にはおにぎりとボトル入りの粒チョコが入っている。
「晩ご飯食べてないだろうと思って。データ移行待ちの間に食べたらいいよ」
「ありがとう。あんたは?」
「オレは新幹線の中で駅弁食べたから」
花梨は端末の前を離れて、後ろにある打ち合わせ用のテーブルに移動する。おにぎりのビニールを開きながら新條に尋ねた。
「岡山の藤本さん、今日の朝の状態に戻るだけでもありがたいって言ってたけど、なにするの?」
「そりゃあ、確定前の状態に戻すんだよ。まずは夜間処理が走る前に今日の朝の状態に戻そうか」
岡山に繋がっている端末で、新條は昨日深夜にシステムが自動的にバックアップしたデータを上書きする。
毎日深夜にはバックアップの他に、他システムへの連携データが自動で送信される。確定処理が終わっていたら、確定データが送信されてしまうので、被害が他システムにまで及ぶのだ。
とりあえず被害の拡大は防げた。けれど、朝の状態に戻ったのなら、今日の作業は無効になっている。データ修正ができるようになっただけマシとはいえ、タイムリミットの給与支給日まで残り二日となって、一日分の作業が無駄になるのは正直きついだろう。