溺愛スイートライフ~御曹司に甘く迫られてます~
エレベータを降りて目の前にあるレストランの入り口をくぐる。新條が名前を告げると男性が先に立って案内してくれた。どうやらいつの間にか予約していたらしい。
案内されながらチラリと眺めた店内は、暖色の照明の下、静かな音楽が流れている。前面はガラス張りで、窓際の席では街の夜景がよく見えるのだろう。その窓際の席が埋まるほどには、そこそこ人がいた。ホテルの宿泊客かもしれない。
ただ、セレブなお客様たちは驚くほど静かで、話自体できるのか心配になってきた。時々チラチラと送られる視線は、完璧にドレスアップした花梨が珍しいというより、隣で優雅にエスコートしている新條に対する興味なのだろう。
この視線に晒された状態でゴージャスディナーなど、なんか色々やらかしそうで居酒屋より落ち着いて話ができない気がする。フーフーできないから、熱い物が来たらしばらく放置作戦でいこう。
花梨が方針を固めた時、案内の男性が突き当たりの扉の前で止まった。扉の真ん中にVIPって書いてあるんですが。
確かにホテルオーナーの息子ならVIPに違いないだろうけど。
次々と襲いかかる初体験の非日常にクラクラしながら、恭しく扉の中に案内される。席について扉が閉じられ、ようやくホッと一息つけた。
そんな花梨とは対照的に、新條は平然とメニューを開いて眺めている。
「おなか空いたね。なに食べたい?」
「おまかせする」
もう雰囲気だけでおなかいっぱいで、ビールと焼き鳥が恋しいとは言えない。
オーダーは新條にまかせ、次々と運ばれてくる料理に舌鼓を打つ。フランス料理だったみたいで、フーフーするような熱いものはなかった。
食事中は他愛のない世間話で談笑する。わざわざ高級ホテルの個室にこもったのに、新條が深刻な話を切り出してくることはなかった。せっかくの高級ディナーを人目を気にせず頂けるチャンスなので、花梨としてはありがたかったけど。